午後3時、世界が少し寂しくなる前に|リセット・ボタン【一人言 読書エッセイ】

一人言

久々の連休ということもあり、昼近くまで寝ていた。
起きると珍しくLINEが来ていた。
唯一の友人からだった。
ホーム画面から見えた文面には、
「来月〇〇(同級生)の誕生日会やるけど来る?」
と書かれていた。
この友人だけは、人と関わるのが下手な自分に連絡をくれる。
ありがたい。

そして、少しだけその誕生日会を開いてもらえる同級生に嫉妬した。
確か、彼もまだ独身だったはずだ。
しかし、女性の知り合いも多く、
給料のいい会社に勤めていて、実家もお金持ち。
おまけに人付き合いも上手く、誕生日会を開いてもらえる友人に囲まれている。

なぜ、こんなにも自分とは違うのか。
「お前の努力不足だから」と言われればそれまでなのだが、
今の自分に正論を受け入れるだけの余裕はない。

とりあえず既読をつけずに、そっとスマホを閉じた。

休日に、部屋にこもりきりなのもマズいだろう。
散歩に出かけることにした。
というのも、歩数計のアプリを入れており、目標の歩数を歩けば、1ポイントもらえるのだ。
貧乏人の私は、たかだか1ポイントのために、やりたくもない散歩をする。
1時間歩いたので、時給1円だ。

やりたくないとはいえ、なんとか楽しみたい。
なので、以前から思っていた
「外のベンチで本を読んだらどんな感じなんだろう」という疑問を確かめに行った。

田舎なので、周りには自然がたくさんある。
森を散歩しながら、いい感じのベンチを見つけた。
そこに座って、ページをめくる。
日光が強すぎて、読みにくい。

散歩中のおばあちゃんに見られるし、気取っている奴みたいで恥ずかしい。
「こんな所で読書している俺見て感」が出ている気がして、すごい嫌だ。
もちろん、世間様は私のことなど眼中にないこともわかる。
ただ、内から溢れ出る「自意識過剰+低い自己肯定感」が自分を嫌にさせるのだ。

結果、2ページだけ読んで家に戻る。

歩いている最中、森の中で急に「一人であること」を強く感じた。
周りからは鳥のさえずりと、木々のせせらぎしか聞こえない。
しかし、夏の青々とした生命力みなぎる森とは違い、
カサカサと、寒さで乾いた寂しさを感じる音だけが静寂の中に響いた。

「さっきLINEをくれた友人は、今頃家族でショッピングモールにでも行っているのだろうか」
ふと、そんなことを考えた。
そして頭の中には、笑顔の子どもたちと手を繋ぎ、賑やかなショッピングモールを歩く自分の姿が浮かび上がった。
「なんて孤独なんだ」
思わず口からこぼれ落ちた。

そしてこれまでの自分を振り返る。

決して、ずっと友達がいなかったわけではない。
学生時代はそれなりに遊んでいた。
お付き合いもした。
しかし、今思えばその頃から心のどこかで、
「嫌われたくない」という感情があり、
気を遣った交友関係だった。
自分から誘って遊ぶことが、ほぼなかった。
誘ったこともあったけれど、誘った手前、相手に嫌な思いをさせたくなくて気を遣った。
その結果、疲れた。
そんなの友達じゃないと言われるかもしれないけど、
自分にとっては大切な友達だから、気を遣った。

やがて、学生という、友人関係が中心だった時代が終わり、異種格闘技戦のような社会人生活が始まった。
そして、そんな荒波に飲み込まれ、メンタルを壊した。
苦しみながら生きていたら、
新型感染症が生活を変えた。
人と関わらない生活が楽だと気づいた。
それと同時に、楽な反面、輝きもないと気づいた。

もっと気楽に考えたほうがいい。
そんなことわかっている。
そんな本だって何冊も読んだ。
だから、頭ではわかっているんだ。
でも、心がわかってないんだ。

家に着いた時には、午後3時になっていた。
この時期のこの時間帯が、私はなぜか哀愁を感じさせる。
寒い冬の時期を抜けそうな予感を感じさせる、日中の暖かさ。
そんな陽気も一瞬で、寒暗い夜に怯えるかのように、すぐに沈む準備に入る。
そんな午後3時。
窓から差し込む、白みがかった薄オレンジの光が、最後の力を振り絞り、壁を寂しげに照らす。
そして、そんな時に本を読み終えた。

こんな、自分の世界に閉じこもった文を書いているのは、
きっとこの本のせいだろう。
私は、本の世界観にモロに心を支配される。

この本は、大学生の主人公が、自ら人生を終わらせたい者が集まるサイトで、昔の恋人と同じ名前の女性と出会うところから始まる。
二人は次第に関係が近くなり、主人公の東は次第に彼女に惹かれていく。
ともに人生を終わらせたいと思っていた者同士。
二人の期限付きの恋はどうなっていくのか……という話だ。
実に切ない。
読み終わった時の感情は、『ノルウェイの森』(村上春樹著)の直子が旅立った時の感情に近かった。

今の自分は、なんの目的もなく生きている。

この本の中に、こんな言葉がある。

<生まれることを選ぶ権利はなかったんだから、せめて死ぬ権利ぐらいはあるべきだと思うよ。

『リセット・ボタン』伊藤たかみ著

今の自分にはそんな権利すら無いような気がする。
そもそも、終わらせる勇気もない。

もう少し自分の人生を、一生懸命に生きて、
せめて悔いのないように最後を迎えたい。

そんなふうに思って、もう一度外に出た。
気分を変えるために。

すると、一匹の猫と出会った。
実は以前にも同じ場所で見かけたことがある。
草むらで一人、気高く佇む姿は、猫ながらたくましいと思えた。
憧れすら感じた。

ポケットからスマホを取り出し、保留にしていた友達のLINEに返信した。

猫は相変わらず、寝転んだままだった。

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