居酒屋を出て、ふらりと歩くこと五分。
たどり着いたのは「一蘭」。
以前から気になっていたが、いつも行列に阻まれて入れずにいた。
今日は昼休みのピークを外したおかげで、並んでいたのはたった二人。
「よかった」
わずか数分で席に通される。
ほろ酔いの心地よさに任せて、全トッピング・替え玉・ライスというフルコースを注文。
味濃いめ、こってり度“超こってり”、ニンニク一片、青ねぎ、秘伝の赤いタレ二倍、麺は超かため。
——朝のジョギングが無駄になることなど、もう気にしない。

味集中カウンターの仕切りが心地よい孤独を包む。
ボッチの自分には、これ以上ない贅沢な環境だ。
無心で麺をすする。
細麺がスープに絡み、ズズッと音を立てて喉を通る。
チャーシューは主張しすぎず、スープと寄り添うように旨味を添える。
キクラゲの歯ざわりがアクセントになり、替え玉も一瞬で完食。
締めにスープへご飯を入れ、おじや風にして一滴残らず平らげる。
誰にも気兼ねせず、夢中で食べ尽くすこの自由——一蘭、最高だ。
思わずアプリまで入れてしまった。
腹ごなしに、バス停までの一駅を歩く。
ほろ酔いのまま、街の空気に身を任せる。
ふと、通りの先に文房具屋が見えた。
革と木の質感が好きな自分にとって、文具は小さな芸術品だ。
店内に入り、万年筆の流線、ボールペンの機能美、手帳の重厚感を眺めていると、
ひとつの筆箱に目が止まる。
革製で、色も好み。値段も手頃だ。
「どうしよう」
すでにお気に入りの筆箱はある。
けれど、この筆箱には違う物語が宿っている気がした。
「ペンが入りきらないし」「持ち運びにちょうどいいし」「記念にもなるし」
酔いの勢いで言い訳がスラスラ出てくる。
もはや自分の中の大蔵大臣も、黙って頷いた。
再び歩き出すと、視界に「BOOK・OFF」の文字。
抗えない。
古本屋は、いつだって宝探しの場所だ。
棚を巡り、手にとった背表紙を指でなぞる。
タイトルを眺めては、心が踊る。
最終的に選んだ三冊は、
『十角館の殺人』(綾辻行人)
『六人の嘘つきな大学生』(浅倉秋成)
『世界でいちばん透きとおった物語』(杉井光)
ずっと気になっていた本ばかりだ。
手に取る瞬間、まるで旅の戦利品を得たような満足感に包まれた。

帰りのバスに揺られながら、今日一日の余韻に浸る。
身体と心を丁寧に満たした、最高の休日。
家に着くと、買った本と筆箱を机に並べ、
おつまみのチョコレートを開ける。
グラスに注ぐのは、「知多ハイボール」。
特別な日にだけ開ける一本だ。

意識が遠のくまで、ページをめくり、チョコをかじり、ハイボールを口にする。
明日になれば、また日常が戻ってくる。
財布も少し軽くなっているだろう。
それでも、今日という一日は、
確かに自分を幸せにしてくれた。


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